SEMICON SHINBUN / TECHNICAL NOTE
IGBT・SiC・GaN、結局どこで使い分ける?
電圧、周波数、効率、コストの4軸で主要パワーデバイスの適材適所を比較。
セミコン芯聞 編集部 / 公開資料に基づく技術解説
更新: 材料と素子構造の区別、周波数で変わる損失の仮想例、逆導通の注意を追加した。根拠のない相対スコア図を比較表へ置き換えた。
IGBT、SiC、GaNを同じ種類の名前として並べると、比較の入口でつまずく。IGBTは素子構造の名前であり、SiCとGaNは材料名である。本稿では、代表的なSi IGBT、SiC MOSFET、GaNパワートランジスタを比べる。材料の新旧やカタログの最大電流ではなく、回路で支える電圧、流す電流、切り替え方から候補を絞るための案内である。
| 対象 | 構造上の着眼点 | 比較時の確認 |
|---|---|---|
| Si IGBT | 少数キャリアを利用 | 導通時電圧・ターンオフのテール・還流経路 |
| SiC MOSFET | 高耐圧を多数キャリアで扱う | 温度とVGSをそろえた抵抗・電荷・実装 |
| GaNパワー素子 | HEMTと制御構成を確認 | 駆動条件・逆導通・カスコード等の構成 |
材料と素子構造を、まず別の列に置く
Si IGBTはMOSゲートで制御しながら、ドリフト領域への少数キャリア注入を利用する素子である。SiC MOSFETはSiCを使ったMOS型の電界効果トランジスタであり、通常の主な導通動作は多数キャリアが担う。GaNパワー素子ではHEMT構造が代表的だが、ノーマリーオフを実現する構成やドライバの組み合わせは製品によって異なる。
この違いから、『GaNなら同じ駆動電圧で使える』『SiCはIGBTの端子だけ置き換えればよい』とは言えない。ゲートの許容範囲、推奨駆動条件、逆方向の電流経路を製品資料で読む必要がある。ここでの三分類は原理を整理する入口であり、製品の互換表ではない。
最初の条件は、回路が要求する耐圧
入力電圧が同じでも、回路方式によって各素子にかかる電圧は変わる。さらに配線や負荷の影響で生じる過渡的な電圧も考慮する。電源の公称電圧と素子の定格電圧を同一視せず、まず回路で必要な耐圧範囲を決める。この段階で条件を満たさない素子は、損失が小さくても候補にならない。
従来の用途説明では、高電圧・大電力にSi IGBTやSiC、高周波の電源にGaNという整理がよく使われる。しかし、これは固定された境界線ではない。製品世代や多レベル回路などによって範囲は重なる。古い比較図に描かれた電圧の線を、現在の全製品の上限として使わないことが大切である。
また、同じ定格耐圧でも、回路中の直列段数が違えば一つの素子が担う電圧と必要な部品点数が変わる。素子一個の比較と、変換器全体の比較を途中で混ぜない。回路方式を変えた結果の損失改善を、材料を変えただけの効果として説明しないことも、技術記事を読む上での重要な確認である。
電流を流し続ける時間と、切り替える回数
IGBTは少数キャリアの注入によって高耐圧領域の導通時の電圧降下を抑える。一方、ターンオフでは蓄積したキャリアが残り、テール電流が損失へ寄与する。SiC MOSFETには同じ原理のテール電流がない。ただし、容量の充放電などの損失は残るため、『テールがない』を『切り替え損失がない』と読み替えない。
MOSFET系の導通損失は実効電流の二乗とオン抵抗、IGBTの導通損失は電流と導通時電圧の関係から考える。実際の値は温度と動作点で変わるので、一方の最大定格と他方の代表値を比べても結論は出ない。軽負荷と定格付近のどちらを重視するかでも、必要な比較点が違う。
切り替え損失は、1回のエネルギーと周波数を組み合わせて考える。説明用に二つの候補を置き、Aは導通12W・1回0.4mJ、Bは導通18W・1回0.1mJと仮定する。10kHzなら合計はA16W、B19Wだが、50kHzならA32W、B23Wとなる。これは特定材料の性能を表す数字ではなく、周波数で選択が逆転し得ることを示す編集部の仮想例である。
逆方向の電流と、オフ期間も忘れない
モーターのような誘導性負荷では、スイッチをオフにしても電流の経路が必要になる。IGBTでは組み合わせる還流ダイオード、SiC MOSFETではボディダイオードやチャネル経由の逆導通、GaNでは製品の逆導通特性を確認する。SiCのMOSFETとショットキーダイオードを、同じ部品であるかのように扱わない。
一般的なGaN HEMTには、Si MOSFETと同じPNボディダイオードがない。だからといって逆向きに電流が流れないわけではない。上下のスイッチを同時にオフにするデッドタイムの長さと、その間の電圧降下も損失を変える。カスコード構成では内蔵されたSi素子の影響もあるため、材料名だけで逆回復の有無を断定しない。
小さな変換器と、安い変換器は同じではない
周波数を上げると、回路によってはインダクタやトランスなどの小型化を狙える。しかし半導体の損失、磁性体の損失、冷却、EMIへの対応も変わる。周波数が高ければ必ず装置全体が小さくなる、という一方向の関係ではない。素子単価だけでなく、駆動回路と受動部品を含めた構成を比較する。
既存の駆動・冷却・調達基盤を使う産業用インバータと、小さな体積を優先する高密度電源では、最適化したい項目が違う。前者は既存方式の総コスト、後者は実装面積や周波数の自由度が選択理由になることがある。ただし、IGBT、SiC、GaNのどれを採るべきかは、用途名だけでは決められない。
冷却についても、チップの許容接合温度だけで放熱器の大きさは決まらない。実際の損失と、チップからケース、基板、放熱器、周囲へ至る熱の経路が関係する。同じ損失でもパッケージや取り付け条件が違えば温度は変わる。高温で動かせるという材料上の特徴を、冷却が不要という説明へ広げない。
仕様を三行で書いてから、データシートを開く
最初の行に素子へかかる電圧と必要な余裕、次の行に負荷電流の範囲と温度、三行目に回路方式と周波数を書く。その上で導通・切り替え・逆導通のどの損失が支配的かを分ける。この手順なら、最高効率という数字だけを追わず、比較資料の条件が自分の回路と合うかを判断できる。
メーカーの損失比較は、特定製品と特定条件での結果である。東芝やロームの説明はテール電流の原理を理解するために使い、削減率を材料全体へ一般化しない。本図も点数や順位を付けず、各方式で最初に確認する項目を示している。構造をさらに読むならSiC入門、GaNの制御方式を読むならノーマリーオフ構造の解説へ進むとよい。
判断が付かないときは、足りない条件を書き残す方がよい。入力電圧しか分からないなら『GaNが最適』とは決めず、周波数と電流範囲を確認する。周波数が決まっていても逆導通時間が不明なら、その損失は未確定とする。分からない項目を明示することも、製品名のランキングより再利用しやすい選定ガイドになる。
参照した公開資料
本文は以下の公開資料を出発点に、編集部が技術的な背景を整理したものです。
- 東芝「Comparison of SiC MOSFET and Si IGBT」2020年8月17日版、2章(原理の比較に使用)(2026年10月19日確認)
- ローム「Differences with IGBTs」(原理の説明と個別比較の区別に使用)(2026年10月19日確認)
- Texas Instruments「Power Loss in Switching Power Supplies」SLUAAL9(損失の基礎)(2026年10月19日確認)
- Texas Instruments「SSZT649」2018年8月(方式選択の考え方。電圧範囲を現在の製品上限としては使用しない)(2026年10月19日確認)
- Texas Instruments「Does GaN Have a Body Diode?」SNOAA36、2019年2月(逆導通の説明)(2026年10月19日確認)
- Texas Instruments「SSZT092」(カスコード構成とSi素子の影響)(2026年10月19日確認)
本記事は記事末尾に掲げた公開資料のみを参照しています。特定企業・顧客の非公開情報は使用していません。